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4月 01

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地域づくりを台無しにした詐欺団

NPO法人シーズネット理事長 奥田 龍人

年末から新聞を賑わせていた詐欺・強盗集団の幹部がススキノで知り合った仲間たちだったということに、愕然たる思いを皆さまも感じたのではないでしょうか。その主犯格が地元の若者たちだったというのは、札幌で生まれ育った私として、とても情けない気持ちになりました。まあ、このご時世ではどこの出身であろうと関係ないのかもしれませんが。それにしても悪質な犯行ですが、この事件は被害者のみならず地域社会にきわめて大きな影響を及ぼしました。
「支え合う地域社会」を作っていこうというのは、少子高齢化が進む日本では大きな命題で、介護における「地域包括ケア」、障害者、子ども、生活困窮者も含めた「地域共生社会」など、国も様々な発信をしているところです。それに呼応して、NPOなどが地道に活動の場を広げてきました。ところが、この事件はそうした努力をいっぺんに踏みにじる暴挙をしでかしてくれました。

もとより「オレオレ詐欺」「振込詐欺」等の特殊詐欺は、だまされたお金よりその後の顛末として家族から責められる、ひいては鬱になるとか自殺するとかの副次的な災いが大きな問題でしたが、この事件は、さらに深刻な問題を引き起こしました。それは、地域社会の支え合い活動への警戒感です。詐欺・強盗グループは、さまざまなルートで入手した名簿をもとにターゲットを絞っていたとマスコミで伝えられました。これで一気に市民の警戒感は強まり、自分の個人情報の流出への危機感が強まりました。ただでさえ個人情報の扱いが難しくなってきているところに、この事件はさらに警戒感を強める作用をもたらしたのです。実際に、首都圏のセキュリティが高いハイグレードな高齢者向け住宅がこの事件以来入居の問い合わせが多くなってきたということを、先日関係者から聞きました。高齢者向け住宅なら、一戸建てやマンションと違い窃盗団も来ないだろうということなのでしょう。また、シーズネットが応援している学生のボランティア団体が、一人暮らしの高齢者から生活支援を依頼され出向こうとした矢先に、息子から「若い奴らの怪しい団体かもしれないのでやめといた方がよい」と言われ断られたという事例もありました。

地域の支え合いは、介護保険などの公的なサービスでは対応できない生活支援や見守りなどを提供して、何とかこの地域で暮らしていけるようにしようというとても大切な取り組みですが、実際の支援をするには住所や電話番号などの個人情報が無いとできません。そういう地道な取組がどんどん崩れていく社会の雰囲気にただただ呆然と立ちすくむのみです。地域社会の行く末に大きな不安を感じた出来事でした。

私たちは今のところ、こうした事態に対する処方箋は持ち合わせていません。せいぜい、特殊詐欺の手口を知らしめ警戒心を醸成するぐらいですが、これは支え合いのための個人情報使用と折り合いが難しく、頭を抱えるばかりです。

なおシーズネットの個人情報保護の取り扱いも万全を期するように見直しておりますが、これについては、またの機会に説明します。

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