
NPO法人シーズネット理事長 奥田 龍人
いつも「シーズネットの会員はいろいろな才能があってうらやましいなあ」と感じています。「サロンこのはな」ではいただいた和服を軽やかな洋装羽織の普段着に仕立て直したり、昨年開いたパンづくり教室の先生(土屋恵子さん)はとても美味しいフルーツ&ナッツブレンドを作ってくれるし、シーズネットの事務室には佐々木良子さんの郷愁を誘う水彩の風景画(第40回北海道平和美術展出展作品)や淡く柔らかな静物画が飾られています。また、この通信編集に長く携わっていただいた岡田勝美さん(故人)は様々な写真展で入選していました。
なによりシーズネット祭りで発表される様々なパフォーマンスや展示される作品群にはいつも「この年齢でこのパフォーマンスがどうしてできるのだろう」と圧倒されっぱなしです。
そんな多士済々の会員の中で、この度カナダの文学賞を受賞したという会員がいます。短歌の会にも属している土橋芳美さんですが、土橋さんが執筆した詩集「痛みのペンリウク 囚われのアイヌ人骨」の仏語訳版と翻訳者が、カナダ芸術評議会が選ぶ今年度の「カナダ・日本文学賞」を受賞しました。私はこの詩集を拝読しておりませんが、内容は国が研究のために身内の承諾なく勝手にアイヌ民族の遺骨を収集して返還に応じないことへの憤りを、土橋さんの祖父(ペンリウク)が孫へ語るという形式で詩へと昇華した作品らしいです。遺骨の返還の件は5月に道新社説で「故郷での埋葬を願う人々に寄り添う姿勢を忘れないでほしい」と言及していますし、7月には東大が、研究者らが遺骨を墓地から掘り起こすなどしたことについて「アイヌ民族の方々のご意向に寄り添うことなく行われた」と謝罪しており、ウポポイで保管されていた遺骨の一部が小樽の団体に返還されました。しかしまだまだ多くの課題があり、先住民族の権利回復に取り組んでいるカナダで、この詩集の内容が高く評価されたということのようです。
土橋さんは「揺らぐ大地」という小説も著しており、私はご本人から拝受いたしました。4編の短編からなる小説で、都会の暮らしと豊かな自然に恵まれた平取が交錯する中で、主人公をめぐるアイヌ民族の豊かさと切なさが描写され、「揺らぐ」アイデンティティの切っ先を読み手に穏やかにではありますが突きつけてきたように感じました。私どもがともすると忘れてしまいがちな北の大地の成り立ち、アイヌ女性が置かれた民族差別、ジェンダー差別を改めて考えさせられました。なお、「揺らぐ大地」はアマゾンで入手できます(1,980円)。
他にも、松中洋子さんから「暮らしの詩」という詩集を拝受しました。昨年9月に出版され、詩集は2冊目ということですが、日常生活の様々な葛藤がユーモラスに描かれ、随所に共感を覚える詩句が散りばめられておりました。
また、高瀬博さんは「心の畑を豊に育む」「桜花の絨毯」「心の花筏」という3部作のエッセイを発刊されています。高瀬さんの歩んできた道やホテルマンとしての経験を基に、今すぐ役に立つ人生訓が満載です。「心の花筏」はアマゾンで入手できます(キンドル版)。
ちなみに私も、6月に岩波ブックレットの「介護保険は崖っぷち」という小冊子に「ケアマネのジレンマ」を寄稿していますが、職業的な内容で、前述した皆さんのような深い洞察と豊かな情緒を感じるようなものではありません。浅学非才な私にはこれがお似合いかと。


