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11月 01

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幸福寿命を考える

NPO法人シーズネット理事長 奥田 龍人

シニアになると「寿命」という言葉に反応してしまいます。よく耳にする平均寿命は、日本は2023年で男性81歳、女性87歳と、世界最高水準です。平均寿命は新生児がいつまで生きられるかの指標で、新生児の死亡率が低くなると当然平均寿命は延びます。日本は乳幼児期の医療が他の国より整備されていることもあり平均寿命は世界トップレベルです。

一方、平均余命という指標もあり、これはある年齢の人がその後あと何年生きるかを示すものです。例えば日本では、今65歳の男性は平均して84歳、女性は89歳まで生きられるようです。同条件での平均寿命は男性81歳なので、平均余命の方が3年も上回っています。今後の生き方を考える場合、平均寿命よりも平均余命の方が参考になると思います。

さて、近年よく取り上げられるのが健康寿命です。2000年にWHOが健康寿命という概念を提唱し、日本でも健康寿命を延ばそうという機運が高まりました。健康寿命とは、介護や長期入院を必要としない元気な状態でいられる年数と言われています。ちなみに2022年の日本の健康寿命は男性で72.7歳、女性で75.4歳です。健康寿命と平均寿命の差が男性で8.4年、女性で11.7年あることから、約10年間も支援や介護が必要な状況になるのは大変と、健康寿命を延ばそうという国家的取組が推進されている状況です。「健康寿命アワード」など、健康に取り組む行政や団体を表彰する動きも活発ですし、シーズネットの活動もできるだけ健康でいられるようにという取り組みに他なりません。

ただ、健康を維持するための努力はとても大切ですが、ここには一つの落とし穴があると思っています。個人的に様々な健康維持活動をしたとしても、脳卒中や認知症など介護が必要とする状態になることを100%防ぐことはできません。つまり、健康を維持するための努力はとても大切ですが、では健康でない人は良い人生を送れないのかという疑問も出てきます。

そこで、近頃、幸福寿命という新しい考え方が少しずつ広がってきています。「どれだけ幸せに生きられるか」という視点で人生の質をとらえたものです。つまり、単に体が動くとか、日常生活がとどこおりなくできるだけでなく、心の状態、社会的なつながり、活動できること、精神的豊かさ、満足度などを含んだ期間というイメージです。幸福は人それぞれの価値観に左右されるのでさまざまな要素がありますが、おおむね、安心安全な地域、快適な住まい、良好な家族関係など環境面の他、社会とのつながりの中で他の人から認められることと他の人を思いやること、そしてなによりも自分が自分らしく楽しく生きているかという生きがいなどが挙げられます。

幸福寿命は、平均寿命や健康寿命と違い数値化できません。今を幸福と感じるか、そうでないかと感じるかは、その人のおかれた状態というよりもその人の心の持ちようです。

私は、自分が健康であるかどうかにかかわらず、現実のさまざまな多様性を受け入れ思いやりの心を持つことが、人生の質を高め、幸福寿命を延ばすことと思います。今が幸せと思える感受性を磨きたいものです。

「しあわせは いつも自分のこころがきめる。」(相田みつを)

※健康寿命を維持するために、市民公開講座で「シニアのリハビリ」というテーマで3回のセミナーを行います。第1回は10月17日「いつまでも口から食べたい」です。ぜひご参加を!

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