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3月 22

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この世界の片隅に

NPO法人シーズネット理事長 奥田 龍人

過日、久しぶりに映画を観てきました。キネマ旬報で2016年のベスト1位に選ばれた「この世界の片隅に」という映画です。アニメ映画でのベスト1は、「となりのトトロ」以来2度目の快挙ということもあって俄然注目されましたが、それまではそれほど話題に上った映画でもなく私もあまり予備知識がなくて、昨年話題になった「君の名は」や「シンゴジラ」を退けて1位になったのだから面白い映画なのだろうなあ、という程度のノリで妻に誘われて観に行ったのです。

ところが期待以上の良い映画で、じわっと泣けてくる映画でした。物語は、戦時中の広島、呉に住んでいた主人公すず(声優はノン・朝ドラ「あまちゃん」のヒロインだった女優)の成長から結婚、戦時下での生活、原爆、終戦、そして戦災孤児を引き取るまでの日常を丹念に描いたもので、登場人物が大きな事件を起こすとかのドラマチックな要素はまったくなく、むしろ、空襲や原爆といった時代の大きなできごとに巻き込まれ、それに翻弄される人々の暮らしぶりがなんとも切なく描かれていました。すずも空襲の時限弾に利き手を無くしますし、すずの妹は原爆症にかかります。そして、食糧を得るのがどんどんと難しくなっていきます。それでも、皆が助け合ってひたむきに戦中戦後を生きていくさまがたんたんと描かれます。

自分の父母は大正6年・9年生まれなので、すずと同じように戦時中が青春の真っただ中であったことを思い、父母の歩みもそのようであったのだろうと、不覚にも涙があふれました。戦争中も戦後も、市井の人々は国家に翻弄されながらも連綿と続く暮らしを守り、子育てをして、復興に向けた努力をしてきたのですね。そうした頑張りがあって今の日本があることを改めて気づかさせてくれた映画でした。

最後のシーンで自宅に連れて行くことになった戦災孤児は、生きているとすると今は74~76歳くらいでしょうか。まさにシーズネットの会員の平均年齢と重なるのです。会員の皆さんもまた、戦中戦後の時期、親の想像を絶する努力があって育ってきたことと思いを馳せます。翻って、今日、児童虐待が増加の一途をたどっています。事件になった事例などでは、親の身勝手な行為と育児の責任放棄が目立ちます。豊かな社会になったはずなのに、子どもの貧困という課題も出てきました。どこで何が狂ったのでしょうか?

昔を懐かしむつもりはありませんが、自分が親にどれだけの愛情をかけられて育てられてきたのかを確認するよい機会となりましたし、その分、今の子どもたちに何かを返さねばという気持ちが強くなりました。
(ちなみにこの映画は、先日、日本アカデミー賞の最優秀アニメ作品賞も受賞しました。)

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